お手伝いとケアの違い③

最終回の3回目は、物理的・精神的限界ラインに到達したまま、仕方なく自分のやるべきことを削って家族のケアをしているヤングケアラーに対して、周りがどのような支援をしたら良いかをお伝えします。

下の図は、高校生の時点で、家族のケアにより自分のやる事が削られて、精神的・物理的限界ラインに到達している子供の状態を示しています。

しかし、この状態が長く続くようになると、この子供の中にある小さな変化が出てきます。それは、今の限界ギリギリの状態から何とか抜け出すために、子供は自分なりに自分の気持ちのあり方や生活の仕方を工夫するようになり、やがて今の大変な状況をうまく「こなせる」ようになってくるのです。この図で言うと、「物理的・精神的限界ライン」が少し上に上がるのです。

つまりこれは、子供の生活能力が高まり、精神的にも成熟していくということです。ヤングケアラーの子供たちと接すると、多くの人が「同世代の子供と比べて大人びている」と感じるのはこのような理由です。

しかし、やることは年齢と共にどんどん増えていくため、またすぐに限界ラインに来てしまいます。

こんなことを繰り返していくことで、ヤングケアラーの子供たちは限界ラインを徐々に高めていくので、子供なのにすごく生活能力が高かったり、とても忍耐強かったり冷静に物事を判断できるようになる子が多いのです。これは、ある意味ヤングケアラーの子供たちの長所と言っても良いと思います。

しかしながら、もちろん長所だけではありません。ヤングケアラーの事が社会問題になっているのは、メリット以上にデメリットのほうが大きいからです。では、ここで二つのデメリットをご説明します。

まず一つ目は精神的なデメリットです。これは、子供が常に精神的な限界ラインの状態で生活しているため、ちょっとした切っ掛けで心が折れてしまったり、自暴自棄になったり、将来への希望を失ってしまう子が出てきてしまうということです。いくら他の子より限界ラインが高くても、その子の中では常に目一杯の状態で、ストレスMaxの状態だからです。

それともう一つは物理的なデメリットです。これは本来の「自分のためにやること」がケアに圧迫されてできない状態が続いているため、その結果、就職や進学の機会を失ったり、夢をあきらめなければならなかったりという様な実生活上の弊害が現れてくるということです。

では、このヤングケアラーが持つ二つのデメリットに対して、周りの人たちはどのような支援をしたら良いのでしょうか?

まず一つ目の精神的なデメリットに対しては、ストレスMaxの状態を解消してあげることです。具体的には悩みを傾聴したり、慰めたり励ましたりして、その子の味方になって孤立させないようにするのです。他にも、一緒に遊んだりしながらケアを忘れて楽しめる時間を持てるようにするのも良いと思います。下の図で言うと、ストレスを取り除き、精神的な面での限界ラインを周りの人が上げてあげて、その子の心に余裕を作るという事です。人は苦しみの中で孤立すると、どんどん思考の悪循環に陥ってしまいます。そうならない為にも、周りの人が関わりを持って心に余裕をもたせることが大切です。

二つ目の物理的なデメリットへの対策は、少しでも子供に自分の時間を作ってあげる事です。図にする地こんな感じです。

例えば、家族や関係者で話し合って、例え数時間でも良いので子供をケアから解放して子供らしい時間を作ってあげるなどです。もし行政の施策によるヘルパー派遣などがあれば使っても良いと思います。しかし、例え仮にヘルパーが派遣されることになったとしても、それによって子供が担っているケアをすべて取り除くことはできませんし、その後も子供が担うケアは必ず残ります。それでもないよりはましです。ほんの数時間でも解放されれば、その間だけでも子供らしい時間を持ったり休んだりすることができます。またそうやって外部の支援が家庭に入り、家庭の閉塞感に風穴を開けることは大きな意味を持ちます。

以上が私のヤングケアラー支援の考え方です。そして本当に大切なのは、どうやってこの支援を実生活の中で実行するかということなのですが、それについては、講演会などで話していきたいと思います。

以上、3回シリーズでお伝えしてきた、「お手伝いとケアの違い」という切り口から考えるヤングケアラーに必要な支援でした。長い文章をお読みくださりありがとうございました。

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