電話着信の思い出

昔我が家にあった固定電話は、自分の家の電話から自分の家の番号にかけると、電話がかかりました。

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つまり自宅の電話をオンフックにして自宅の電話番号を押すと、同じ電話機に着信音が鳴るのです。

回線が2つあったからなのでしょうか?

もう35年も前、私が小学生の頃でしたので理由はわかりませんが、当時の私は学校から帰ってきたら毎日こうやって自分の家に電話をかけていたことを思い出しました。

目的は若年性アルツハイマー病の母親に電話の受話器を取らせるためでした。

 

当時、母は40代後半。すでに若年性アルツハイマー病はかなり進行していて、私が「お母さん」と話しかけても、母は一瞬私の顔を見たかと思うと、すぐに何もない空間に視線をずらして、そこに向かって意味不明の言葉をしゃべりだすような状態でした。

だから私は毎日学校から帰ると、何とか母親を正気にさせようとして、大声を出して驚かせたり歌を歌ったりと色々なことを試していました。でも全く効果はありませんでした。

そんなある時、いつものように私が母と二人でいると、家に電話がかかって来ました。

すると母がサッと反応して「もしもし、」と言いながら受話器を取ったのです。私はその受話器を取った母の姿を見た時に、一瞬「正気な母親」に戻った様に見えたのでした。子供心にその時の嬉しと言ったらありません。

「お母さんが元に戻った!」

そう感じた私は、それからはとにかく母を電話に出させたい一心で、暇さえあれば自宅の電話番号に電話をかけて、母に「もしもし、」と電話に出させてはその姿を見るようになったのです。母にしてみたら、電話に出ても相手がいるわけでもなく無言電話のようなものなので、余計に混乱していましたが・・・

そしてそれは、学校から帰ったら行う私の日課になりました。母が「もしもし、」という瞬間だけが、私にとっては昔の母親と会える大切な時間だったからです。

だから今でも私は、電話のトゥルルー、トゥルルーという着信音を聞くと、母の「もしもし、」という声が心の中に甦ってきます。

 

あれから35年が経ち、当時の母と同じ年になった私は、今ケアマネジャーをしています。この仕事に就いた理由は、「昔の母と自分を救ってあげたい」からなのかも知れません。

でも、ケアマネジャーになったことで、私は買い物弱者問題に出会いました。そう考えると、「えんじょるの」は母のおかげで出来たのだと思います。

 

電話着信だけで使えるITシステム「えんじょるの」、そんな電話着信にまつわる悲しくて切ない思い出でした。

 

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